「鑑賞対話ファシリテーター」って、どんなお仕事ですか?
※舟之川聖子の鑑賞対話ファシリテーターという仕事について、インタビューしていただきました。
―――そもそも「鑑賞対話ファシリテーター」とは? 他では聞いたことのない肩書きです。
自分の活動に〝呼び名〟が欲しいと思っていた頃に、事業の相談をしていた方からヒントをもらって、決めました。私のしていることもしたいことも、全部が入った名前です。
―――本や漫画、映画、美術から文楽・お能・オペラといった舞台まで。さまざまな作品を鑑賞して、それについて語り合う「場」を作るのが聖子さんのお仕事です。鑑賞と対話がセットになっているところがポイントだと思うのですが、ここを詳しく聞かせてください。
鑑賞に対話を組み合わせることで、作品の受け取り方がより広く深くなって、精彩を増していきます。立体的に、多面的に、横断的になっていく。
作り手や届け手に敬意を持って、作品を作品として味わうことが大切です。その上で、対話を通して、鑑賞をその人の「学び」に変えていきます。対話は、そのためのプロセスです。
―――「学び」ですか! 対話によって、鑑賞がどのように学びに変わるのですか。
鑑賞後に対話してみると、「他の人が注目していたのに自分は見逃していた」ということが出てきますよね。「自分には見えていないことがある」と気づきます。
自分とは違う他人の解釈に触れたり、人と意見がこすれ合ってバチバチして「えっ?」「へえー!」「すごい!」というような、強い反応が起きたり。鑑賞と対話から思いがけない刺激を受けて、時に自己破壊というほどのレベルで驚くときに、「学び」が起こるのだと思っています。これは気持ちがいいだけでなく、実は大変なエネルギーを使うことです。
―――なんだか痛そうです。「それまでの自分を越えること」と考えると、確かに勇気が要りますね。
だから、ファシリテーターは、その場の安心・安全を保つことが必要です。「ここでは、どんな考えも否定されない」「言いたくないことは言わなくてもいい」「この場で話されたことは、互いに他には持ち出さない」と皆で約束すれば、自分の意見を言いやすくなります。
―――なるほど。安心して考えを出すことのできる場所を作るのですね。ところで、題材となる作品はどうやって選んでいるのですか。
時代の動きを見ながら、そして生活者としての自分の感覚を結集しながら、選定しています。なぜそれを扱うのか。なぜ「今」、それについて対話する必要があるのか。これが自分の中でハッキリと言葉になった時に、いい鑑賞対話が実現します。
こうした「理由」や「思い」を事前に伝えて、参加者のマインドセットを作っておくことも大切ですね。具体的には、募集する時の案内文です。この文章で、どんな会になるかが、ほとんど決まってしまうようなところもあります。
―――そこまでが聖子さんのお仕事、ということですか?
とんでもない。まだまだです。事前準備が大事です。その作品に関連すること、例えば作品成立の経緯や歴史、作者の意図などは調べておかなくてはなりません。
作品鑑賞では何を受け取るのもその人の自由ですが、外したり誤ったりしてはならない情報というものもあるからです。宗教画や、「慰安婦像」など社会的メッセージを持った作品で考えると分かりやすいでしょうか。作品から離れすぎずに鑑賞体験を深めるため、「よかった」「きれいだった」「おもしろかった」では終わらせないために、共有しておかなくてはならない前提があります。
情報量が増すことで鑑賞は活性化するし、より深掘りができるようになります。対話の時間にある情報を放り込むことで、突然、気づきが起きて広がることもあります。
―――なるほど。では最後に。場を開くとき、聖子さんが一番大切にしていることはなんですか。
参加した方に、する前と後で「何かが変わった」という感触を持って帰って欲しいです。たとえば「分からないことが生まれた」「もっと調べようと思った」「自分は一人じゃないと思えた」というような。良い変化が生まれる場にしたい。
「学ぶなんて、一体なんの役に立つの?」と思っている人がもしいるなら、そんな疑問を越えて、その人の今後につながっていくようなきっかけが作れたら最高です。
(2021.3.16 Zoomにて)
聞き手:佐々木彩子
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