VISION

複雑で深刻な課題を抱えるわたしたち

今、わたしたちの世界は、人類史上かつてない規模の複雑で多様な問題を抱えています。

多分野にわたる研究と実践と美術により、人間や社会構造や地球環境について、多くのことが明らかになってきました。

テクノロジーの進化は、個人が一瞬にしてそれらの圧倒的な規模の情報にアクセスすることを可能にしました。それは、人類の課題を解決することや、未来の可能性も生み出しましたが、一方では、これまでのツケを突きつけられるような根本的な問題や、これまで直面してこなかった新たな、より深刻な問題を再生産しています。

集団が拠り所としてきた秩序や生態系は崩壊し、信じてきた価値基準や通念や常識は日々覆され、天災や人災によって明日何が起こるかわからない、不安な時代にわたしたちの日常はあります。前向きになろうにも、これまでの人間が一生のうちで扱っていた範囲を遥かに超える関係量と取引量に圧迫され、わたしたちの疲労は限界に達しています。

一人ひとりが自分の生命の羅針盤を持つために必要な力

このような時代に混乱して前後不覚にならず、絶望せず、生きていくための最良の策は、わたしたちが、これまで人類が目をつぶってきたこと、先延ばしにしてきたことに曇りのない目を向け、対峙することです。

同じ時代を生きる多様な人々と協力・共存しながら、人の営みの歴史や事象、自然物から学び合う、新しい文明をつくることからはじめるより他、ありません。一人ひとりが自分の生命の羅針盤を持ち、つくることが、自分自身が明日を生きる希望と、これから生まれる人たちの希望をつなぐことになります。

それを実現するために必要となる力があります。

  • 思考ー感情ーニーズ、身体ー精神、主観ー客観、抽象ー具体、物理ー倫理、全体ー個別、定量ー定性、垂直軸(時間)ー水平軸(地理)、言語ー非言語、日常ー非日常などのスケールを持ち、必要に応じて自在に移動させたり、ズームイン/アウトさせる力
  • 主体的に観察し、気づき、問いを立て、考察し、自己や社会の現状を客観的に「批判」する力
  • 自らの内なる叡智に気づき、つくり出す力。
  • 違いを怖れず対話を試み、他者と叡智を分かち合い、共に行動する力。

アート(Art)を手がかりに

同じ時代を生きる人々に、これらの力を育む機会を提供することが使命であると感じたわたしは、これまで先人たちが連綿と継いできた、あるいは現在提出され続けているアート(Art)に手がかりを求めました。

ここでのアート(Art)とは、見えないもの、見えにくいものを感情的、感覚的、体感的に捉えられるように、人間の創造力と想像力の表現を作品としたもの、あるいは応用・編集・展開して作品としたものを指しています。

ここに手がかりを求めたのは、アートが、表現者や表現物と鑑賞者とが相互に作用し合うことで、個々の人間の感性という内部での変動と、社会の変動に働きかけ、影響を与える人間の営みだからです。

鑑賞体験を通して、自分を生かす力を育む

わたしは表現と鑑賞をより関係付けるための「場」、人が集い相互作用を起こす「場」を意図的につくることを手法としています。個別の自発的な経験に終わらせず、鑑賞者同士の対話を生み出し、内的変化を起こしながら、関係性を構築する場をしつらえ、進めます。

また、鑑賞対象の関係者(作り手、届け手、受け手)が共にひとつの場をつくることで見出される可能性にも目を向けています。各々の立場を行き来しながら、制約や枠を良く逸脱し、知的好奇心と対等性を大切にしながら感受性を育み合い、知を喜び祝福し合う場を設計し、進行します。

集う人がよき鑑賞体験を通して、自分を生かす力を育むこと、そしてそれを可能にする場をつくること。

それがわたしの提案する鑑賞対話ファシリテーションです。